活字の森 思考の迷路

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ドラマ「きのう何食べた?」は素敵な愛情物語

 

先日You Tubeでオススメされてテレ東の「きのう何食べた?」を観た。関連するような動画を観ていなかったのでどうしてオススメされたのかは謎だったが、観始めたら面白くて全12話+2020正月スペシャルを3日間で一気観してしまった。

原作である漫画の方は読んでいないのでそちらとの対比はできないが、なかなかに見応えがあり大人の愛情の物語が心にグッとくるドラマだった。詳しいストーリーなどは下のリンクをクリックしてください。

www.tv-tokyo.co.jp

ja.wikipedia.org

 

このドラマのいいところは愛情が激情型じゃないところ。主人公のふたり、シロさん(西島秀俊)は45歳、ケンジ(内野聖陽)は43歳。実際、いい年になったらそうなるよね。ケンジは激しくシロさんを愛しているけれども引くところは引いていて押し付けがましくない。シロさんの気持ちを慮って日々過ごしている。シロさんにとってケンジは理想の相手ではないから肩肘張らずに付き合えているということでシロさんの愛情はちょっと雑。ケンジにおいしいものを食べさせたくて毎日手に縒りをかけて何品も料理を作る繊細さと愛はあるのに、昔アイドルだった女優に心をときめかせたり、ケンジとの関係を周囲に隠したがったり、まるでふつーに異性同士のカップルの彼氏のようだ(シロさんの方が女性寄りらしいが……)。

主人公カップルの愛情もほんわかしているし、周囲の登場人物たちはキャラは濃いがこちらもほんわかしている。登場人物たちの人との距離感が本当にいいなと素直に思った。

ほかにも友人関係、親子関係といった間柄での関係性や愛情の描き方ですごいなと思った点を4つ書いてみる。

 

1.親子間の愛情への過剰な期待と演出がない

世間的には親が毒親でも「そうは言っても親子なんだから親孝行しなさい」的な風潮があるが、そういった話や演出がなかったところにも好感が持てた。

例えばケンジの父親はお酒を飲んでは家族に暴力を奮ったり金を無心してくる下衆な男だったが、ケンジはそんな父親と母や姉たちを近づけないし、中学生の時にすでに酔っ払った父親に「迷惑だから来ないでくれ」ときっぱりと言っている。現在、父は生活保護を受けているらしくケンジのもとに面倒を見られないか尋ねる文書が役所から送られてくるがそれもきっぱりと拒否。例え血がつながっていても家族や自分を苦しめる相手のことは拒否できる。それが冷たいとか責任放棄だと言う人たちもいるだろうが、こればっかりは毒親を持った人でなければわからない。下手に責任感でなんとかしようとすれば共倒れになるし、おそらく後悔しか残らない。世の中の慣例や世間体を気にして面倒を見ることにしたら最終的には親をいまの1億倍くらい憎んだまま人生を終えることになるだろう。

♯8に出てくるケンジの友人のゲイカップルのうちのひとりも親との確執があり「自分の築いた財産を自分が死んでも両親にはビタ一文渡したくない、パートナーと養子縁組して彼に残したい」ということで弁護士であるシロさんに相談している。

親族間の確執の強さは経験している本人にしかわからないし、血がつながっている方が憎しみ加減が半端ない場合もある。そういうところをメロドラマとして描かなかったところに私は心地よさを感じたし好感が持てた。

また、シロさんが正月に初めてケンジと両親を引き合わせるが、ここでも親子間の愛情が濃密すぎない。両親の深い愛情はあり、母親はシロさんがゲイだとわかった途端に新興宗教に走ってしまうくらい悩むが、描かれ方が重くない。シロさんも両親も気を使い合っているしそれぞれ認め合っているが微妙なすれ違いもある。けれどもそれをことさら大袈裟に取り上げたりはしない。シロさんと母親が料理を作っている間にシロさんの部屋でシロさんの卒業アルバムを見ながら語り合うケンジと父親。ケンジはシロさんはなぜ弁護士を目指したのかなど自分が思うところを語っていて、それがとてもよい話だったのに両親が気にしていたのはそんな精神性の話ではなく「ゲイである息子がいつも女装してるのかどうか」というところだった。ケンジが女装していないことを知って心から安堵する両親。家族の心配なんて案外そういうところにあるのかも。

 

2.ケンジの愛が半端ない

ケンジのシロさんへの愛情が海よりも深いことは置いておくとして、ケンジは周囲の人たちへの愛情も深く気遣いの仕方がさり気ないし外れていない。

シロさんと喧嘩したときも自然と仲直りできるように振る舞い、勤務先の美容室のスタッフともお客さんとも信頼関係を築き、シロさんの両親にもさり気なく気を使う。一回りほど年下の友人のゲイ航くんはとても生意気だが、ときどきかわいい対抗心を燃やすだけで航くんの嫌味な態度にも憎まれ口にも余裕で対応。ふっと見せる笑顔には「かわいい」と思っているフシもある。

乙女で情緒不安定なところもあるけれど、人として懐の深いところが見ていて感心する。あんな人になりたいなあと思わせてくれる愛情深さ。まるで菩薩のようだ。

 

3.役者さんの演技が半端ない

シロさんの西島秀俊、ケンジの内野聖陽はもちろん、脇を固める人たちの演技も本当に素晴らしかった。特に小日向さんを演じた山本耕史には笑わせてもらった。パートナーの航くんを「風と木の詩ジルベール」にそっくりだと思っており(実際にはちょっとむさ苦しい青年)、何かひどい仕打ちをされても「ああ、かわいい……」と独り言ち、航のために料理を作るシーンではムキムキの体にタンクトップという出で立ち。その姿がものすごく妖艶で声を出して笑ってしまった。おにぎりをにぎる手付きの妖しさはみんな見た方がいい(笑)。山本耕史恐るべし!と本気で思った。

また、内野さんの顔が漫画のケンジにそっくりに見えるときがあって、それも役者ってすごいなと感心した(似た人をキャスティングしたのかもしれないけど)。

 

4.料理が手頃

毎回誰かが作る料理をその作るところからきちんと見せるグルメドラマでもあるが、その料理に使う材料がペットボトル入りのだしつゆであったり安い食材であったり、明日真似してみようと思える料理の数々だった。グルメドラマだと調味料にまでこだわるというのがありがちで、実際このドラマでも小日向さんや両親に財産をビタ一文渡したくないカップルはグルメで調味料にも食材もお金をかけていたが、そっちの料理は作り方まで紹介していない。

これを見て私も明日から堂々とだしつゆに頼ろう!と思った(笑)。

 

劇場版もあるというのでこちらも観ないといけないなと思っている。